あなぐまブックログ

読書と暮らしの記録を気ままにつづります。

『方舟』夕木春央|講談社

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昨年から読まなくてはと思い続けていて、ようやく読んだ。

実は一度読み始めてから、文体が合わずにしばらくページをめくるのをやめてしまった。細かい部分に違和感を覚え、なかなか情景を頭の中に思い浮かべられなかった。

しかし本腰を入れて読み進めると、中盤以降は文体がノイズにならなくなった。そこからは一気に読めた。

 

探偵は何のために謎を解くのか? 謎を解くことそれ自体に快感を見出す探偵もいるし、義憤にかられて真実を追い求める探偵もいる。

当作の探偵は、みんなのために犠牲になる一人を決めるべく謎を解く。つまり、謎を解くこと自体がゴールなのではなく、推理の末に決定された「死んでもいいやつ」にちゃんと犠牲になってもらい、その他全員が助かることが真のゴールだ。それが読者に提示された状態で話が進むので、最後の最後まで緊張感をもって読み進められた。

 

結末が衝撃的だというのはずっと聞いていて身構えながらエピローグを読んだのだが、期待を超える衝撃度合だった。

というのも、当作では「死んでもいいやつ」を決めるにあたっての登場人物たちの倫理的葛藤が各所で語られるのだが、わたしはその内容にあまりのめり込めなかった。SNS(というか旧Twitter)でトロッコ問題についての表面的な話がトレンドになるたびに、どうにも冷めた気持ちになってしまう。それと同じテンションで紙面を眺めていた。

そんな気持ちでいたところに、あのエピローグ。さながら、映画『ジュラシック・ワールド』のラストで唐突にプールから飛び出てきて、インドミナス・レックスを水中に引きずり込むモササウルスを見ているようだった。当記事では結末の内容に触れるつもりはないのでこれ以上は言わない。ただただ、おもしろかった。