あなぐま読書ノート

読んだ本や漫画の記録。

『るん(笑)』酉島伝法|集英社文庫

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集英社の別の書籍を購入した際、挟まっていた広告ペーパーに載っていた本。Kindleで購入して読んだ。

 

読み始めはよかったのだが、だんだん不穏なにおいがしてくる。

 

襖が開いていき、真弓が静かに和室に入ってきた。人との交わりを豊かにするチェック柄の寝間着姿だ。

ー『るん(笑)(集英社文庫)』酉島伝法著

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人との交わりを豊かにするチェック柄……?

 

こういう小さい気持ち悪さが澱のように溜まって、じき「ああ、そういうことね」とわかる。気持ちよかった。いや、気持ちは悪いけど。

 

科学と迷信が逆転した世界が描かれているのだけど、科学的なものに囲まれた暮らしの中で、迷信が猛烈に支持されている描写が良かった。

『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈

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本屋大賞受賞作を、受賞直後に購入したのは初めてのことだ。

いままで、あまりベストセラーとか売れているエンタメ文芸とかに触れてこなかった。それが、最近図書館で雑多に小説を読む中で「ポップなエンタメ小説も好きかもしれない」と思い始めている。もともとYouTubeチャンネル「ほんタメ」で、女のためのR-18文学賞受賞作として取り上げられたときから気になっていたので、この機会に読もうと思った。

読み終わってまず思ったことは「この本が本屋大賞を取ったということが嬉しい」だった。

あまりにも滋賀成分が濃すぎる。わたしは関西在住で、滋賀の土地柄やご当地ネタもある程度把握しているため、作中に出てくる滋賀ワードたちには割と馴染みがあった。しかし全国の書店員さんのなかにはそこまで滋賀と縁のない方だっていらっしゃるだろう。それでもこの本が「おもしろい!」「多くの人に読んでほしい!」と推されて大賞になるというのが、地方在住者からしてみれば嬉しいことだ。もちろん、作者の読ませる力と、成瀬をはじめとした登場人物たちの魅力あってこそなのだが。

成瀬と交差していくさまざまな人たちが語り手になり、最終章で成瀬自身の語りが繰り広げられるのがとてもよかった。登場人物たちがそれぞれに語る成瀬はたしかに変わり者なのだが、成瀬本人によってその行動の意図や目的が語られることで、成瀬の変さに健気さを見出してしまう。この後の成瀬が人生の中でぶつかるであろう困難や挫折にどう向き合っていくのか、わたしも島崎と共に「成瀬あかり史」の目撃者になりたいと思わされる。魅力的な作品だった。続編も読みたい。