『ここはすべての夜明けまえ』間宮改衣|早川書房
Twitter・現Xで、小島秀夫監督が言及していて興味を持った一冊。
第11回ハヤカワSFコンテスト特別受賞作となった間宮改衣著「ここはすべて夜明けまえ」を読了。なんとも言えない読後感。老化しなくなる特殊な“融合手術”を受けた女性の100年間にもわたる独白による家族史。SFというより、SFの容れ物を借りた文藝。文体が特徴的。川上未映子さんの文体をもっと長くして… pic.twitter.com/mCClqpB7YE
— 小島秀夫 (@Kojima_Hideo) 2024年3月11日
川上未映子の文体が大好き、漢字を開きに開きまくった文体(桜井晴也とか)も大好きなので、即買って積んでおいた。仕事で予定外の残業をしてへろへろになった日に、すべての用事を済ませ、お風呂に籠もって一気に読んだ。
主人公の女性は1997年生まれで、わたしと同年代だ。作中には聞き馴染みのあるボカロ曲の数々が出てきたりして、いっそう彼女に親近感を覚える。しかし、彼女は肉体の老化を止める特殊な"融合手術"を受け、100年以上の人生を生きることになる。
長い時を生きているのに、彼女の語りには終始(漢字の少ない文体も影響しているが、それだけではない)幼さを感じた。百歳をとうに超えているのに、語りから見えてくる彼女の趣味嗜好のどれもが10〜20代にかけて浴びたものばかりだったのが、読み進めているとじわじわと効いてくる。
読後、「SFってこういうアプローチもあるんだ」としみじみと嬉しくなり、『いずれすべては海の中に』(サラ・ピンスカー|竹書房文庫)を思い出した。単に書名に共通点を見出しているのではなく、SFの世界観でミクロな個人へアプローチする手法について。